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【連載】めぐるBOCプロバイダー探訪⑶〜産業看護師 鈴谷由美さんの場合〜
お知らせ1)はじめに
看護師経験を経て写真家として活動する工藤葵が、医療や介護現場で働くBOCプロバイダーを密着取材し、対話と写真を通して生き様を探る連載企画です。第三回目は「三井精機工業株式会社」産業看護師の鈴谷由美さんです。
2)「三井精機工業株式会社」産業看護師の鈴谷由美さん
今回、ご紹介するのは「産業看護師」と呼ばれる「企業で働く看護師」鈴谷由美さんです。
鈴谷さんが勤務されているのは、1928年(昭和3年)、当時外国に依存していた精密測定機器や精密工作機械を国内で生産する目的で設立された「三井精機工業株式会社」です。
現在は事業を「工作機械」「コンプレッサ」の2部門で構成し、各部門で高性能の製品を開発することにより、業界では「技術の三井精機」との高い評価を得ています。
本社工場は埼玉県にあり、全国各地の他、アメリカ、中国、ヨーロッパにも拠点を構えています。今回、取材させて頂いた鈴谷さんの職場は本社工場です。
同じ看護師であっても、未知に感じていた「産業看護師」。医療・介護現場とは異なる一般企業で働く鈴谷さんに密着しました。
まず、主な業務内容を伺うと、
「社員全員の健康管理をはじめ、心理相談員として心のケアを中心に相談対応をしています。非常勤の産業医が一名と、週一回診療を行う非常勤医師が一名おり、診療所として風邪や腹痛などの一般診療も行っています。
軽症の対応が中心となりますが、会社の中に診療所があることで、急な症状に対する処方や外傷の処置も可能です。また、病状の重い方を早めに外部医療機関へ紹介したり、紹介後も主治医と連携し、治療や復職のサポートを行っています。」
と教えて頂きました。
会社に勤めている方であれば、定期的にやってくる健康診断。たった一人の看護師である鈴谷さんは、この会社に勤めている全社員の結果を確認した後、要精査項目があった方へ検査結果を説明し、受診を勧めます。重大な疾患を見落とさないように、産業医の就業判定に繋げます。
「社員の心身の不安を速やかに解消するために、健診後のサポートを含め、メンタルヘルス面でも、再発防止や確実な復職支援のため、主治医との連携を大切にしています。産業保健活動は、健康と労働の調和を図り、安全と健康に望ましい風土を醸成する必要があります。」
と鈴谷さん。
3)診療所に行けば鈴谷さんがいる
日々、様々な方が鈴谷さんのいる診療所を訪れます。高血圧の為、血圧測定を毎日している男性や、職場の悩みを抱えた方、ついでに挨拶をと立ち寄った方。皆、鈴谷さんとお話しすることで安心し、「じゃあまた!」と足取り軽く持ち場へ戻って行く姿が印象的でした。
「職場の悩み」を持っている人は、この社会に沢山いるかもしれません。例えば、友人の悩みに対して「そうだね。辛いね。」と相談に乗った経験がある方も多いでしょう。誰しもが抱えてしまうかもしれない苦痛やその人に、どのように関わっていけばよいのでしょうか。
実際にそういった方との面談が行われた際、鈴谷さんは、確かな責任感を持ち、「産業看護師としてあなたを支えてゆくのだ」という真っ直ぐな態度を貫いていました。
また、本人より
「まずは傾聴に徹します。例えば、10分以上の長い沈黙が続いても、その時間を大事にしています。信頼関係が築けなければ、助言もしません。
以前、40分間の面談をした方がいました。長い沈黙の末、お話したことは一言、二言。「次はもう相談に来ないだろうな」と思い終了したら、「今日は結構話を聞いてもらえたから楽になりました。また来ます。」と言われた方がいました。その後の面談を通して、とてもよくお話される方とわかりました。最初は私を警戒していたのかもしれません。
病棟の業務のように時間に追われることは少ないため、その人がその時に抱える辛さと同じ目線で、ゆっくり時間を掛けて接することができますし、それを大切にしています。」
と、お話頂きました。
今回、取材同行が叶ったのも、鈴谷さんが社員の方々と育んできた信頼関係があっての事。
実は、鈴谷さんが「三井精機工業株式会社」に就いた当初は、看護マニュアル等も少なく、また看護師の同僚もいない環境でした。
その中で、人事総務部との連携や、管理職に意見を伺う機会を設けたり、健康保険組合と協力し、保健指導や栄養指導の支援を企画したり、社員が通院する病院の主治医と連携し、職場と日常生活内での対応についての情報交換を行うなど、全て自分で切り拓いて行ってきました。
常に笑顔を絶やさずにいる鈴谷さんを見て「どうしてそんなに頑張る事が出来るのだろう?」と思い尋ねると
「私自身が相談したり話を聞いてもらったり、支えてもらっているんです。以前は一人職場で慣れない状況のなか、正直、孤独感が常にありました。今は社員とのコミュニケーションも増え、多くの方にサポートして頂き沢山の経験をさせて頂いています。本当に感謝しています。」
と、その理由を教えて頂きました。また、
「いつも不機嫌そうにしている人に話しかけようと思いませんし、いつも忙しいと言ってる人に話を聞いてもらおうとは誰も思わないですよね。
誰しも仕事で疲労がたまると、イライラしたり視野が狭くなることはあるものです。そんな時には診療所をフラッと覗いてみてほしい。
例えば、診療所を季節ごとのオーナメントで装飾して、来た方が一時でも笑ったり、気分を少しでも癒せるような環境作りをしています。
“看護師さんは暇なの?”なんて言われると、勝ったな!と心の中で思います。わたしにとっては最高の誉め言葉です。」
さて、ずらりと並んだこのポスターは、全て鈴谷さんが制作したものです。
「社内の健康教育として、安全衛生委員会で月毎にテーマを決めてお話をしています。誰かに依頼されて始めた訳ではなく、自ら企画・立案して発信を始めました。」
回を重ねていくうちに、社員の方々の関心が高まり、「教えて欲しい」と鈴谷さんがいる診療所を訪ねる方も増えたようです。
社員の方をモデルに起用したポスターも、鈴谷さんだからこそ制作できる、ここでしか生まれないデザインが素敵です。
資料を制作する際には、論文、医学書等の文献、図書館にあるような一般向けの健康本などを何冊も読むそうです。また、知人の医療従事者に助言を貰ったり、実際の患者さんから体験談を伺うこともあるそうで、その徹底ぶりに圧倒されます。
今後、鈴谷さんは女性対象に乳がんセミナーも開催するとの事。実際にがん治療を受けながら働いている社員の方や、ご家族が闘病中という方も多く、そういった悩みも気軽に相談出来る環境を目指しているそうです。
3)「BOCプロバイダー」と沢山の学び
「BOCプロバイダー」入会のきっかけについて
「社員の方から、「口内炎」や「親知らずの抜歯後で食事ができない」「子供の歯磨きの仕方が分からない」等、口腔内の異常やケアに関する相談が意外と多かったからです。
口腔疾患やケアについて、自身の知識不足を感じ、セミナーを受講しました。
BOCグループは、定期的にセミナーを開講しており、入会後はそれらが全て無料で受講できると知り、すぐに入会しました。
また、過去の講義が見放題、グループ内メンバーが投稿した質問等も見ることができるため、学ぶ機会だけでなく、口腔ケアに関して同じ意識を持つ仲間作りもしたいと思い、Facebookグループにも登録しました。」
徹底した学ぶ姿勢を持つ鈴谷さんらしいエピソード。受講後は、唾液の大切さを学び、新人研修も開催したそうです。
さらに「BOCプロバイダー」での学びを
「BOCグループでは、病気は口からはじまるということを改めて学んでいます。グループ内には多職種の方がいて、それぞれの所属先でのケア方法を知ることができたり、活動を通して仲間が出来る事の有り難さや、プレゼン方法など、口腔ケア以外にも吸収できる情報がたくさんあります。」
取材中、健康保険組合の担当社員より、「1歳児の歯科受診勧奨を目的に、乳歯の歯磨き指導のパンフレットを配布するのだが、何かグッズを付けたい」と相談を受け、
「実際に貰って嬉しいグッズがいいですよね。乳児用歯ブラシとかどうかな?」
と鈴谷さん。
そこには、社員を想い、何事も実践しながら看護を切り拓いてきた「三井精機工業株式会社」産業看護師の顔がありました。
◯撮影・取材協力
-鈴谷由美さん(三井精機工業株式会社 看護師)
-三井精機工業株式会社
HP:http://www.mitsuiseiki.co.jp
◯執筆・撮影
-工藤 葵
写真家、元老健の看護師。写真を通して「生きる眩しさ」を表現している。写真撮影・映像制作・執筆。ファッションブランド「HOUGA」コンセプトムービー制作、老舗の地ビール会社「横浜ビール」広報を担当。訪問看護支援協会「BOCプロバイダー」公式Instagram運用、「めぐるBOCプロバイダー探訪」連載中。