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【連載】めぐるBOCプロバイダー探訪⑵〜訪問看護師 深谷時子さんの場合〜

お知らせ

1)はじめに

看護師経験を経て写真家として活動する工藤葵が、BOCプロバイダーとして活躍する医療・介護従事者の方々が働く現場を密着取材し、対話と写真を通して「BOCプロバイダー」をめぐる生き様を探る連載企画です。第二回目は「ハートウェーブ訪問看護リハビリステーション」訪問看護師の深谷時子さんです。

2)「ハートウェーブ訪問看護リハビリステーション」訪問看護師の深谷時子さん

前回の記事で取材した「訪問看護ステーションささえ 」矢口聡子さんと同様に、深谷時子さんも訪問看護師です。

「訪問看護」とは、地域で暮らす子供から高齢の方まで、幅広い世代の方々の生活を支えるお仕事です。かかりつけの医師の指示書をもとに看護師や作業療法士、理学療法士、言語聴覚士などリハビリの専門家が自宅に訪問し生活のお手伝いをします。

今回取材した「ハートウェーブ訪問看護リハビリステーション 」は、2018年に神奈川県相模原市の上溝地区にて開業。看護師の他にリハビリの専門家である理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の方も所属されています。

「ハートウェーブ」という名前には「心のつながり」・「地域とのつながり」を大切にしていきたいという意味​が込められています。

開業されて数年にも関わらず、利用者の方々はすでに200名を超えているのだそう。

「居宅介護支援事業所(*1)」が併設している事や、介護経験があり看護助手として自ら訪問にも同行される社長、コンサルタントの執行部員など、多職種が一同に介していることが強みなのだと教えて頂きました。

「ハートウェーブ訪問看護リハビリステーション 」は、働き方改革に取り組んでおりスタッフの出勤時間は各々違います。その為、スタッフが勢ぞろいしたミーティングは基本ありません。9時を過ぎた頃、訪問に行く前のスタッフ数名が自然と「Aさんは昨日◯◯だったよ。」等と話し合いが始まります。決まったミーティングが無い分、積極的に情報共有や話し合う姿勢を大切にしている姿がありました。

深谷さんは「子育て世代の職員も多く“お互いさま”精神が息づいています。掃除も洗濯も、上司も後輩も関係なくします。顔を見て若い、ベテランはありますが、誰が上司かはわからないかも知れません。皆、専門職としてお互い尊重しあっていますよ。」と話します。

3)生活の醍醐味

私が同行取材したその日は、5件の訪問を予定していました。移動は基本的に車です。ご近所のご利用者の方から、山奥の遠方に暮らしている方まで様々です。


相模原市は、街の中央に相模川が横断し、相模原北公園など大きな公園も多く自然を身近に感じる事が出来ます。移動の道中も山々を眺めながら「秋には紅葉、春には桜が咲いて素敵なんですよ。」「天気が良ければ湖がよく見えて綺麗で。」と深谷さん。その街にお気に入りの景色があるという事だって「暮らしの醍醐味」なのだと思いました。また、ご利用者の方との会話中「家の前のお花がすっかり育っていましたよ〜。」等と「暮らしの醍醐味」を積極的に共有し、楽しげに“お話している”姿が印象的でした。


「ハートウェーブ訪問看護リハビリステーション」には、若手看護師の方も在籍されているそうで「病棟勤務の経験しかない若手看護師にとって訪問看護に挑戦する事って勇気が入る事ですよね。」とお話すると

「最近、久しぶりに若手看護師の訪問に同席した時に、利用者の方が孫と接するような見た事のない優しい表情でお話しされている様子を見て。ベテラン看護師だけでなく色々な世代が関わる価値があるなぁと思いました。」

と深谷さん。ご利用者の方にとっての「生活」に対し、何が出来るのかを真剣に考えているからこそ出る言葉だと感じました。




4)訪問看護に出会えて良かった

そんな深谷さんが訪問看護に携わるまで「看護師」としてのターニングポイントとなった出来事をお伺いすると

「これまでは病院、クリニック、施設に携わってきました。振り返ると手術室の経験が一番長かったです。初めての職場は、大学の産婦人科病棟でした。当時は、産科と婦人科両方が対象でした。周産期だけでなく、婦人科疾患の患者さんも対象で、いきなり、命の誕生と死を目の当たりすることになりました。女性の一生を考えさせられる現場でもありました。看護師として初めてのお産は単眼児。赤ちゃんの誕生とお母さんの命が引き換えになったことも。でも、沢山の赤ちゃんの誕生に立ち会えたこと、産まれたばかりの赤ちゃんを抱っこ出来たことは、財産ですね。」

との事。始まりの産婦人科での経験から現在に至るまで“命”について考える機会が多かったそう。また

「訪問看護に関わる前には、施設で看取り看護を導入する為の看護師要員として、グループホームを含む介護施設で働いていました。施設での看取りは、心電図モニターも無く最初は病院とのギャップもあって特に大変でした。ですが、素敵な利用者さんやご家族との出会いがあって。他には、介護士さん達に沢山のことを学ばせて頂きました。歌いながら利用者のお腹を時間をかけてマッサージしている姿だとか、体位ドレナージを丁寧に行う真摯な姿に感銘を受けたのです。年齢を重ね、看護師としてもう少し、医療、お年寄りの方だけでなく色々な人と関わりたいと、飛び込んだのが訪問看護です。」

と話します。介護施設での学びを経て、訪問看護に携わっている深谷さん。同行する中で深谷さんとご利用者の方、そのご家族との会話の全てが自然体。



それを「信頼関係が〜」と一言でまとめるには野暮かもしれませんが、自然体な姿を引き出し、想いを汲み取り、真摯な姿勢で返し続けること。深谷さんにとって大切な看護観である「徹して、ご利用者さん中心で常にベストケアを目指していくこと。人の物語、生きる事により添いたい。」と言う想いを持ちすでに実践し続けている姿は、真っ直ぐに生きるたくましさがありました。


実際に、退院後の再診の度、通院するにも一苦労だと言う高齢のご夫婦に対し「訪問診療」について丁寧に伝えている姿や、家族やご利用者の困り事や不安を察知して応える姿は心強く「訪問看護に出会って良かったと言ってもらえたとき」が嬉しいという深谷さんですが「深谷さんに出会えて良かった」と思っている方々がこの街には沢山いるのだろうと思います。

 

5)口腔ケアで救える命がある

「BOC(ベーシックオーラルケア)プロバイダー」講座を受けてみようと思った実体験を

「あと一週間と言われた、難治性の誤嚥性肺炎の90代の男性が、9ヶ月間もその命を伸ばし、シチューを食べ、パンを食べるまでになり、桜の花も見にいけた。介護施設では、口腔ケアを徹してするようにしたら、誤嚥性肺炎で入院させることがなくなった。そんな経験をしたからです。」

とお話頂きました。「BOC(ベーシックオーラルケア)プロバイダー」とは、基本的な口腔ケアの必要性や方法・知識を啓蒙するリーダー(資格)。

実際に「BOC(ベーシックオーラルケア)プロバイダー」としての学びや変化を伺うと

「BOCプロバイダーで改めて口腔ケアの大切さと、その根拠を学びました。食べることはQOL(生活の質)には欠かせないこと。それには口腔ケアは大事なことだと確信できました。根拠を知れば、更に自信を持って積極的に出来るようになりました。BOCプロバイダーになったことで、地域の集会で、オーラルケアの大切さをお話しする機会も頂くことが出来ました。」

なのだそう。


「色々な人が気軽に寄れる、看護師さんがいるから相談に行ける。そんな付加価値のあるコミュニティーカフェのおばちゃんになりたい。」と言う夢を持つ深谷さん。こうして今も、未来だって、色々な人の生活と心を支える「看護師」として走り続けています。

6)“徹する”看護

今回の同行中、在宅でのお看取りが多いと言う深谷さんから、様々なご利用者の方との物語についてお話頂きました。「癌末期の方々が、良い意味で予後予測を裏切る出来事は印象深いことばかりでした。」と言う深谷さん。その物語はどれも、人の生き死に向き合う術に正解は無いこと。一人の死はそれで終わるのではなく、周囲の人間に「生きる」為のヒントのような何かを残して続いてゆくのだと思いました。

実際に、訪問看護の現場で感じる難しさを伺うと

「制度の壁があってサービスが必要と感じても、十分に提供出来ない場合や、医療連携がスムーズに出来ない時は本当に悔しいです。まだ、在宅医療・訪問看護のことが知られていなくて、導入が遅れることも切ないです。癌末期という判断のご利用者さんが退院の際、病院に見捨てられたような思いでいらして…。そのことで大切な時間を悶々と過ごされている姿に出会うことも辛いです。」

「命はもちろん大事ですが、命の長さに目的が集中してしまい、生きることの大事さを考えられない状況の方や、ご家族がそのことに思いがいかない場面、ご本人の思いがわからない時が難しいと感じます。」

なのだそう。

そう言う際にどうしているのか伺うと

「徹して寄り添います。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)や人生会議のこと、機会を見てお話しします。やっぱり大丈夫だったじゃん、ということはありますが看護師として極端に聞こえたとしても、もしもの話は絶対的にする必要がある。生きるに寄り添います。」

とお話頂きました。様々な場面で「徹底的にやり切る」看護を大切にしている深谷さんは、生きるエネルギーに溢れた120パーセント「看護師」なのです。

*1)

在宅生活において支援、介護が必要な方(要支援、要介護認定者)が介護サービスを適切に利用できるよう、ケアマネージャーが在籍し、要介護認定の申請のお手伝いや利用者の居宅サービス計画(ケアプラン)の作成をお手伝いする窓口を担っている事業所のこと。

 

〜撮影・取材協力〜

 

◯深谷時子さん(看護師)

 

◯ハ ートウェーブ株式会社「ハートウェーブ訪問看護リハビリステーション」

【住所】神奈川県相模原市中央区上溝6-8-17  

【ホームページ】https://www.heart-wave.jp

 

 

工藤 葵 (写真撮影、執筆) 

 

写真家、元老健の看護師。写真を通して「生きる眩しさ」を表現している。写真撮影・映像制作・執筆など。ファッションブランド「HOUGA」コンセプトムービー制作、老舗の地ビール会社「横浜ビール」広告写真・SNS運用・note執筆等を担当。訪問看護支援協会「BOCプロバイダー」公式Instagram運用、「めぐるBOCプロバイダー探訪」連載中。

 

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